同じくちびるでそおっとうたおう

そうだね。

今日も何もいいことがなかった。
なんでこんなことばかり起こるんだろう。
どうして思い通りにいかないんだろう。
信号は全部赤。
走ったのにバスは行っちゃった。
体調には変化がない。
チケットは取れない。
何もうまくいかない。
何も手に入らない。

そんなことを言ったってね。
ないないないないばっかりくだらない。
それよりも今日あった良かったことを言ってみよう。

死にそうな人が今日生きていてよかった。

車窓から見える景色は青空だけだった。

選んだアイスがおいしくてよかった。

あの人の嬉しそうな顔が見れてよかった。

クッキーがおいしかった。

おもしろい音楽が聞けてよかった。

店で好きな曲がかかった。

柏も池袋も後楽園も人も猫も夏の最後を楽しんでいた。

お月さんはビルにも雲にも邪魔されずまん丸と光り輝いていた。

猫をおなかの上に載っけたらやわらかくてあたたかくて心地よかった。

自分以外の存在を愛する感情が自分の中にあってよかった。


20年前に知ることもなかったことを私は今たくさん知っている。
10年前に考えられなかったことを私は今たくさん考えられる。
できなかったこと、わからなかったこと、判断をもてなかったこと、
見ることさえできなかった未来を少しだけ感じることができる。
イメージに色がつく。

目を閉じればそこにはチカチカしたものがたくさん見える。

私は生きているから。


今、ないたのは猫ちゃんかい?

愛しているよ。

こんにちは、さようなら、おやすみなさい。